アイミー国際特許事務所
弁理士法人アイミー国際特許事務所

  • お知らせ

IMY知財ニュース 2023年6月 不正競争防止法2条1項21号

今クールのテレビドラマで、知財業界を題材にしたドラマ(日テレ『それってパクリじゃないですか?』)があるのをご存知でしょうか?

先日の放送では、主人公が勤務する飲料メーカーがパテントトロールから特許を高額な金額で買わないか、と持ち掛けられ、その特許を無効にするための資料(新規性を否定するための資料)を必死で探すというシーンがありました。

 

パテントトロールは自身では特許に関連する事業を行わないため、相手先との間に競業関係はありません。

通常のケースでは、特許権者が競業者に警告状等の通知をしますが、競業者の取引先に通知をする際には特に、不正競争防止法第2条1項21号(競業関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為)に該当する可能性がありますので、注意が必要です。

 

今回は、特許権者が競業者の取引先に特許権を侵害している旨の通知書を送付した行為が、不正競争防止法第2条1項21号に該当すると認定された事例について、簡単に紹介いたします。

(大阪地方裁判所 令和4年3月24日判決  令和元年(ワ)第5620号・令和2年(ワ)第10046号)

 

<事例>

①原告x(特許権者)は、「太陽電池の発電制御システム」の特許権を侵害しているとして、被告yに損害賠償を請求した。

②被告yは、原告xの特許権に無効理由があるとの理由で無効審判を請求した。

無効理由:原告xの特許出願よりも前に、被告yの従業員が同様のシステム(発明P)を開発し、この発明Pを実現するための制御方法(プログラム)を搭載した製品を納品先Aに設置し、A社は特許出願よりも前に公然と実施した。

③原告xは、無効審判の係属中に、被告yの取引先に、被告yの製品の販売中止を求める通知書を送付した

 

<論点>

・制御方法に特徴があり、解析しないと知り得ない発明についての『公然実施』の判断

 

<大阪地方裁判所の判断>

・②事件(無効審判)に関して

 被告yが第三者に対し発明Pを譲渡し、最終的にA社に納品されているところ、当該第三者やA社が発明Pの内容等について守秘義務を負っていることやその解析を禁止されていることをうかがわせる事情はない。そうすると、少なくともA社に対する納品をもって、発明P公然と実施されたと認めるのが相当であり、本件特許は無効とされるべきものである。

 

・③事件(告知行為)に関して

 本件特許は無効審判により無効とされるべきものであり、被告製品が本件特許権を侵害するとは認められないにもかかわらず、被告yの取引先に対して行った告知行為は、原告と競争関係にある被告Yの営業上の信用を害する虚偽の事実を告知等する行為である。したがって、本件告知行為は、被告Yに対する不正競争(不競法2条1項21号)に該当する。そして、原告は、②事件において無効理由の有無等が争われている中で本件告知行為をしたのであり、原告には、この点について少なくとも過失が認められる

 

<まとめ>

 「公然知られた発明」とは、不特定の者に秘密でないものとしてその内容が知られた発明をいうのに対し、「公然実施をされた発明」とは、その内容が公然知られる状況又は公然知られるおそれのある状況で実施をされた発明をいいます。

 そのため、プログラムの発明のように解析しないと知り得ない発明であっても、発明実施品を譲り受けた者が守秘義務を負っておらず、かつ、当該実施品を解析して当該発明を知り得るのであれば、『公然実施』に該当すると解されます。

 原告xは、被告yの製品の納品先であるA社による発明Pの実施が『公然実施』に該当しないという確信のもとで、③の告知行為をしたものと思われますが、無効審判において無効理由の有無等が争われている最中の競業者の取引先への警告行為は「過失」があると認められ、不正競争行為と判断されました。

 

 今回のようなケース(特許無効理由の有無が争われている中で競業者の取引先に特許権の侵害をにおわせるような告知を行うケース)に限らず、競業者の取引先への告知行為は高いリスクがあると認識しておくことが重要です。

 

A.S 記)