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IMY知財ニュース 2024年11月 すしざんまい事件
特許、意匠、商標 などの知的財産権の効力が及ぶ範囲は、その法律が制定されている地域(国)に限定して認められますが(属地主義)、インターネットで全世界とつながっている現代においては、属地主義の判断が難しくなってきています。
今般、知財高裁にてインターネット時代における商標の属地主義についての考え方が示されましたので、その事例「すしざんまい事件」について簡単に紹介します。
(1)すしざんまい事件の概要
日本において寿司店を経営する株式会社喜代村(以下「原告」)は、「すしを主とする飲食物の提供」などを指定役務とし、下記に示すような複数の商標権を日本で保有しています。
・商標① 登録5003675
・商標② 登録5758937
SUSHI ZANMAI (標準文字)
・商標③ 登録6317426
他方、マレーシアでは、原告とは無関係の事業者(ダイショーグループ内の企業)が、すし店「Sushi Zanmai」を経営しており、また、マレーシアで商標権を取得しています。
(出典:トリップアドバイザー)
属地主義の観点から、この事業者がマレーシアで商標権を取得しているか否かに関わらず、マレーシアの寿司店に「Sushi Zanmai」を使用すること自体は、何ら問題となりません。
今回問題となったのは、マレーシアの寿司店と同じグループの企業(ダイショージャパン、以下「被告」)が、日本向けのウェブサイトに日本語でマレーシアの寿司店「Sushi Zanmai」の広告を載せる行為が、原告が保有する日本の商標権の侵害にあたるか(被告の広告が原告の指定役務と同一または類似であるか)、ということです。
(2)東京地裁の判決
今年3月、東京地裁では、上記行為が日本の商標権の侵害にあたるとの判決がなされ、原告が勝訴しました。
(令和6年3月19日判決 令和3年(ワ)第11358号)
具体的には、東京地裁は、被告(ダイショージャパン)のウェブページは日本語によって記載され、日本国内の取引者および需要者に向けたものであり、各ウェブページには、「手頃な価格で幅広い客層が楽しめる回転寿司。厳選した食材と豊富なメニューで人気を集めています。」との説明が掲載されているといった事情からすれば、各ウェブページにおける「Sushi Zanmai」等の表示を掲載した行為は、「役務に関する広告・・・を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」(商標法第2条第3項8号)に該当するといえ、被告は原告商標を『使用』したものと認められる、という内容でした。
(3)知財高裁の判決
その後、知財高裁(控訴審)では、東京地裁の判決を覆し、原告にとっては逆転敗訴となる判決がなされました。
(令和6年10月30日判決 令和6年(ネ)第10031号)
知財高裁の判決要旨は、以下の通りです。
①本件各ウェブページは、ウェブサイト全体の構成と記載内容によれば、控訴人を含む企業グループが東南アジアにおいて日本食を提供する飲食店チェーンを展開するとともに、そこで提供するための食材を日本から輸出する事業を営んでいることを紹介するものであると認められるから、被告各表示を付した本件各ウェブページは、原告各商標の指定役務「すしを主とする飲食物の提供」と類似する、すし店の「役務に関する広告」に当たると認めることはできない。
②また、仮に、被告各表示が、すし店の提供する役務を表示するために使用されていると考えたとしても、当該役務は日本国内の役務ではなく、国外で提供される役務であるから、日本国内において、出所表示機能、自他商品識別機能等を果たす態様で使用されていると評価することはできない。そうすると、本件ウェブページ掲載行為は、被告各表示を商品等表示として「使用」するものに当たらない。
<まとめ>
上記②に示されるように、知財高裁は、日本向けの広告を見た日本の消費者が出所を混同したとしても、その結果は商標権の効力の及ばない国外で発生するため、商標権の侵害にはあたらないとの判断を示しました。
日本の知財高裁では属地主義についてこのように判断されましたが、他国でも同様に判断されるかどうかは分かりません。そのため、日本の事業者が国外需要者向けに宣伝広告を行う場合には、最密接関係地たる受信地(国外)の法が適用される可能性があることを、念頭においておく必要がありそうです。また、国外で有名な商標があることを認識している場合には、「○○の○○とは無関係です」のような文言(ディスクレーマー)を表示しておくことが重要であると考えられます。
(参考:新・判例解説Watch 知的財産法№169 Sushi Zanmai事件 田村義之)
https://lex.lawlibrary.jp/commentary/pdf/z18817009-00-111692507_tkc.pdf
(A.S 記)