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IMY知財ニュース(2021年11月) AI関連発明~続編~

今回は、今年5月のIMY知財ニュース~AI関連発明~の続編をお届けします。

前編では、AI関連発明の種類、および、AI関連発明の一つであるAI利用発明における『記載要件』の判断のポイントについてお話しました。
後編では、AI利用発明における『進歩性』の判断のポイントについてお話させて頂きます。

AI利用発明に限らず、『進歩性』の有無は、いわゆる“当業者”が公知発明等に基づいて容易に発明することができたか否かにより判断されますが、AI利用発明などのコンピュータ関連発明における“当業者”は、(その発明が属する)特定分野の技術とコンピュータ技術の専門家からなるチームとして捉えられるという特徴があります。
そのため、AIを利用すること自体が新規であるとしても、発明が解決しようとする課題が、コンピュータ技術の分野において一般的な課題であったり、AIを利用することにより奏される効果が、コンピュータ技術の分野において一般的な効果であったりする場合、その発明は“当業者”にとって容易であり『進歩性』を有さない、と判断されてしまいます。
以下に、進歩性なしの審査事例を紹介します。

◇事例1
入力データと出力データとの相関関係が既知である「癌レベル算出装置」の審査事例

<本願発明の内容>
【請求項1】
被験者から採取した血液を用いて、当該被験者が癌である可能性を示すレベルを算出する癌レベル算出装置であって、
前記被験者の血液を分析して得られるAマーカーの測定値及びBマーカーの測定値が入力されると、前記被験者が癌である可能性を示すレベルを算出する癌レベル算出部を備え、
前記癌レベル算出部は、Aマーカーの測定値とBマーカーの測定値が入力された際に、推定される癌レベルを算出するように、教師データを用いた機械学習処理が施された学習済みニューラルネットワークを有する、癌レベル算出装置。

(出典:特許庁審査基準 事例33)

<出願時の技術水準>
・引用発明1
被験者から採取した血液を用いて、医師により、当該被験者が癌である可能性を示すレベルを算出する癌レベル算出方法であって、
前記被験者の血液を分析して得られたAマーカー及びBマーカーの測定結果を用いて、前記被験者が癌である可能性を示すレベルを算出する癌レベル算出段階を備える、癌レベル算出方法。

(出典:特許庁審査基準 事例33)

・周知技術
機械学習の技術分野において、複数の者から収集した各者に関連する所定の入力データ(生体データ等)とその者が病気である可能性を示す出力データからなる教師データを用いてニューラルネットワークに機械学習処理を施し、当該学習済みニューラルネットワークを用いて、被験者に関連する所定の入力データに基づいて当該被験者が病気である可能性を示す出力データの算出処理を行うこと。

(出典:特許庁審査基準 事例33)

<進歩性の判断>
「引用発明1」と「周知技術」とは、ともに病気の可能性の推定を行うためのものであるから、課題が共通する。そして、医療の分野において「医師」が行っている推定方法を、コンピュータ等を用いて単にシステム化することは、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない。
(中略)
そして、本願発明の効果は当業者が予測し得る程度のものであり、引用発明1に周知技術を適用するに当たり、特段の阻害要因は存在しない。
したがって、本願発明は、進歩性を有しない

≪コメント≫
上記事例1のように、入力データと出力データとの相関関係が既知である場合、「単純なAIの適用」に該当すると判断され、進歩性なしと判断される可能性が高いです。

では、下記①②のように、入力データと出力データとの相関関係が既知ではない場合には、進歩性ありと判断されるでしょうか。
「教師データの変更」を行ったもの(例:学習モデルへの入力データに、相関関係が明らかではなかったデータを加えたもの)
または、
「教師データに対して前処理」を行ったもの(例:学習モデルへの入力データに、推定精度を上げるための前処理を行ったもの)

AI利用発明における“当業者”は、(その発明が属する)特定分野の技術とコンピュータ技術の専門家からなるチームとして捉えられるため、進歩性をクリアするためには、入力データと出力データとの相関関係が既知ではないというだけでは不十分であり、それに加えて顕著な効果が認められることが必要である、といわれています。
以下に、進歩性ありの審査事例(上記②「教師データに対して前処理」を行うAI利用発明)を紹介します。

◇事例2
教師データに対する前処理を行う「認知症レベル推定装置」の審査事例

<本願発明の内容>
【請求項1】
回答者と質問者の会話に係る音声情報を取得する音声情報取得手段と、
前記音声情報の音声分析を行って、前記質問者の発話区間と、前記回答者の発話区間とを特定する音声分析手段と、
前記質問者の発話区間及び前記回答者の発話区間の音声情報を音声認識によりそれぞれテキスト化して文字列を出力する音声認識手段と、
前記質問者の発話区間の音声認識結果から、質問者の質問種別を特定する質問内容特定手段と、
学習済みのニューラルネットワークに対して、前記質問者の質問種別と、該質問種別に対応する前記回答者の発話区間の文字列とを関連付けて入力し、前記回答者の認知症レベルを計算する認知症レベル計算手段と、を備え、
前記ニューラルネットワークは、前記回答者の発話区間の文字列が対応する前記質問者の質問種別に関連付けて入力された際に、推定認知症レベルを出力するように、教師データを用いた機械学習処理が施された、認知症レベル推定装置。

(出典:特許庁審査基準 事例36)

<出願時の技術水準>
・引用発明1
回答者と質問者の会話に係る音声情報を取得する音声情報取得手段と、
前記音声情報を音声認識によりテキスト化して文字列を出力する音声認識手段と、
学習済みのニューラルネットワークに対して、前記音声認識手段によりテキスト化された文字列を入力し、前記回答者の認知症レベルを計算する認知症レベル計算手段と、を備え、
前記ニューラルネットワークは、前記文字列が入力された際に、推定認知症レベルを出力するように、教師データを用いた機械学習処理が施された、認知症レベル推定装置。
(引用文献1には、認知症レベル推定装置が回答者の認知症レベルを所定の精度で推定できることが、当業者が理解できる程度に記載されている。)

(出典:特許庁審査基準 事例36)

<進歩性の判断>
教師データを用いてニューラルネットワークを学習させる際に、入力となる教師データに一定の前処理を施すことで教師データの形式を変更し、ニューラルネットワークの推定精度の向上を試みることは、当業者の常套手段である。
しかし、認知症レベルの評価手法として回答者と質問者の会話に係る音声情報のテキスト化された文字列に対して、質問者の質問種別を特定し、当該質問種別に対応する回答者の回答内容とを関連付けて評価に用いるという具体的な手法を開示する先行技術は発見されておらず、そのような評価手法は、出願時の技術常識でもない。
(中略)
さらに、請求項1に係る発明では、質問者の質問種別を特定し、当該質問種別の質問に対応する回答者の回答(文字列)を関連付けることによって、ニューラルネットワークは、教師データから熟練した専門医の知見を効果的に学習することができるので、精度の高い認知症レベルの推定を実現することができるという、顕著な効果が得られる。
したがって、本願発明は、進歩性を有する。

以上

(A.S 記)

2021年11月9日 | カテゴリー: 中小企業向け情報

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