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IMY知財ニュース(2021年10月) 自然法則の利用

近年の知的財産法の改正により、保護されるべき「意匠」および「商標」の対象範囲が広がりました。具体的には、建築物、画像、内装デザイン等を意匠法で保護でき、音、動き、ホログラム等を商標法で保護できるようになりました。
それに対して特許法で保護されるべき「発明」の対象範囲はここ数十年間ほとんど変わっておらず、「自然法則を利用した技術的思想の創作」のままです。研究を積み重ねて有用な技術的アイデアを創出したとしても、それが自然法則を利用したものでなければ、「発明」に該当せず、保護を受けることができません。

今回の知財ニュースは、「自然法則の利用」について触れたいと思います。

水車は、「水は高所から低所に向かって流れる」という自然法則を利用した技術的思想の創作物であり、筏(いかだ)は、「木は水に浮かぶ」という自然法則を利用した技術的思想の創作物であり、それらは「発明」として成立するものです。

特許審査基準に、自然法則を利用していないものとして以下の例が記載されています。
a)自然法則以外の法則(例:経済法則)
b)人為的な取決め(例:ゲームのルールそれ自体)
c)数学上の公式
d)人間の精神活動
e)上記a)~d)までのみを利用しているもの(例:ビジネスを行う方法それ自体)

日頃種々の技術的アイデアに接する機会が多いですが、その中には、自然法則を利用したものなのかどうかの判断に迷うものもあります。以下に紹介する事例は、ある技術的なアイデア(「辞書を引く方法」)に関して、特許庁審判部は自然法則を利用していないので『発明に該当しない』と判断し、その審決取消訴訟で知財高裁は自然法則を利用しているので『発明に該当する』と判断したものです。

判決年月日:平成20年8月26日
事件番号 :平成20年(行ケ)10001号
出願番号 :特願2003-154827号

 

[明細書等の記載内容の要点]
従来の英語の辞書(英和、英英辞書等)では、見出し語は単語の綴り字のabcの順に並べられている。ある単語のスペリングや意味を調べたいのに、その単語のスペリングを知らなければ英語辞書で該当の単語を見つけられない。
本発明の目的は、耳で聞いた単語の発音を頼りにして英語辞書から目標単語を見つけるようにすることができる、辞書を引く方法を提供することである。
本発明の内容は、以下の3点に整理することができる。

(ア)対象とする対訳辞書について、英語の単語を、①子音、②発音記号、③英単語、④対訳要素を横一行にさせた上、各単語の子音の音素を縦一列にローマ字の順に配列させたこと。

(イ)対訳辞書の引き方について、
①耳にした英語の音声を、子音と母音との音響上の違いに基いて分類処理する。
②目標単語の音声(例えば「レッスン」)から子音の音素を抽出する(「l」「s」「n」)。
③辞書上で、その子音音素のローマ字転記配列の中から目標単語の候補を探す(子音欄でlsnの行を見つける)。
④結果が一つだけあった場合は、その行を目標単語とみなし、この行にあったすべての情報を得る。
⑤子音の検索結果が二つ以上あった場合は、個々の候補の発音記号を見たり、対訳語を見たりして、目標単語を見つけ出す。

(ウ)機能上の特徴について、
①言語学の音響物理的特徴を人間視覚の生物的能力で利用できること、
②コンピュータによるデータの処理に適し、単語の規則的、高速的検索を実現したこと、
③対訳辞書を伝統的辞書のような感覚で引くことも実現したこと、
④段階的な言語音の分類処理方法によって、従来聞き分けの難しい英語音声もかなり聞き易くなり、英語の非母語話者でも、英語の音声を利用し易くなったこと、
⑤英語の一単語に四つ以上の要素(基本情報)を持たせ、辞書としての本来の機能を果たすこと、
⑥これらの基本情報の段階的相互照合的構造によって、調べたい目標単語を容易に見つける索引機能も兼ねること、を挙げている。

 

[特許庁審判部の判断]
以下の理由により、「発明」に該当しない。

(ア)本願発明の「辞書を引く方法」は、人間が対訳辞書を引く方法を特許請求するものであると解釈可能であるから、対訳辞書の特徴がどうであれ人間が行うべき動作を特定した人為的取り決めに留まるものである。

(イ)人間の聴覚で識別された言語学の音響特徴を分類処理することは、専ら人間の精神活動を規定したものにすぎず、人間の精神活動である分類処理の結果にしたがって、人間が辞書を引く動作は、人間が行うべき動作を特定しており、人為的取り決めそのものといえ、やはり、自然法則を利用しているものとはいえない。

 

[知財高裁の判断]
審決の判断は、以下の通り失当である。

(ア)出願に係る特許請求の範囲に記載された技術的思想の創作が自然法則を利用した発明であるといえるか否かを判断するにあたっては、出願に係る発明の構成ごとに個々別々に判断すべきではなく、特許請求の範囲の記載全体を考察すべきである。

(イ)この場合、課題解決を目的とした技術的思想の創作の全体の構成中に、自然法則の利用が主要な手段として示されているか否かによって、「発明」に当たるかを判断すべきであって、課題解決を目的とした技術的思想の創作からなる全体の構成中に、人の精神活動、意思決定又は行動態様からなる構成が含まれていたり、人の精神活動等と密接な関連性を有する構成が含まれていたからといってそのことのみを理由として、「発明」であることを否定すべきではない。

(ウ)審決の判断は、①発明の対象となる対訳辞書の具体的な特徴を全く考慮することなく、本願発明が「方法の発明」であるということを理由として、自然法則の利用がされていないという結論を導いており、本願発明の特許請求の範囲の記載の全体的な考察がされていない点、及び②およそ、「辞書を引く方法」は、人間が行うべき動作を特定した人為的取り決めであると断定し、そもそも、なにゆえ、辞書を引く動作であれば「人為的な取決めそのもの」に当たるのかについて何ら説明がないなど、自然法則の利用に当たらないとしたことの合理的な根拠を示していない点において、妥当性を欠き、取り消しを免れない。

(エ)本願の特許請求の範囲の記載においては、対象となる対訳辞書の特徴を具体的に摘示した上で、人間に自然にそなわった能力のうち特定の認識能力(子音に対する優位的な識別能力)を利用することによって、英単語の意味等を確定させるという解決課題を実現するための方法を示しているのであるから、本願発明は、自然法則を利用したものということができる。本願発明には、その実施の過程に人間の精神活動等と評価し得る構成を含むものであるが、そのことゆえに、本願発明が全体として、単に人間の精神活動等からなる思想の創作に過ぎず、特許法2条1項所定の「発明」に該当しないとすべきではなく、審決は、その結論においても誤りがある。

 

[最後に]
特許庁審判部による審決を見れば「なるほど」と納得でき、それを取り消した知財高裁の判断を見ても「なるほど」と納得できます。本事例のように、技術内容によっては自然法則を利用したものなのかどうかの判断が難しい場合があります。特許法の究極的な目的は、産業の発達に寄与することです。「自然法則の利用」と「産業の発達」とは密接不可分の関係にあるのかといえば、そうではないように思います。自然法則を利用しない技術的思想の創作であっても産業の発達に寄与することもあります。AIやIoT関連技術をはじめ、多様な技術が多く開発されている現状では、「自然法則の利用」の要件を緩やかに解釈してほしいですね。

(H.I.記)

2021年10月6日 | カテゴリー: 中小企業向け情報

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